Wednesday, July 6, 2011

養老孟司『真っ赤なウソ』

      「人間の権力欲」・・・人を自分の思うようにしたいという、そんな欲望はだれでもあるんじゃないですか。
面白いもので、食欲とか性欲とかいうものは、いったん満たされるとすっと消えますね。腹いっぱい食べて、「もっと食いてえ」って言う人はいないんで、自然にブレーキが掛かる。ところが、お金とか権力とかにはブレーキが掛かってこないんです。
      ・・・イラクに駐留するアメリカ軍が、アブグレイブ刑務所で起こしたイラク人捕虜への残虐行為が話題になっています。たかだか20歳くらいの女の兵士が煙草をくわえ、笑いながらイラク人収容者の裸を指したり、首に皮ひもをつけて、まるで犬のように扱っているという状況です。あれは自分が権力者という立場にあるということに本人はまったく気付いていない。あの女性兵士は庶民という感覚のままでやってるんですよ。
      ・・・あのような行為は一般庶民が権力的な立場に置かれたときに起こすことです・・・一番おかしなことは、みんなが庶民だということ。みんなが庶民であると、ひょっとした瞬間に、特権的立場になってしまうことがあるんです。人は状況によって権力者にもなるんです。
    ・・・普段はおしとやかな奥さんが、いざ車を運転し始めると、他の車に悪口雑言を浴びせたり、歩行者に対しても、とんでもないことを平気で言ったりする。・・車のひき逃げ事件なども・・・特権意識の典型的な例です。
そういうときの人間の行為の特徴は、やってしまってから逃げることです。
P.P.174-177)
         cia torture in iraq tv3 nz

<衆生救済と医者について>

      (政府などが)先端医療に、どんなにお金をかけたって、おそらく一般の人の幸せは増えることはない・・・(予防医学など)のほうが、はるかに大切なんですが、医者はそういう評価をしないんです。医学の場合には一般に向けていいことをしても、医者は評価されません。医者は医者の領分でものを考えて、自分の損得でものを考えるんです・・・一人一人の患者の面倒を見るより・・(そのほうが)得ですから。
(p.140)


<真実は「やぶの中」について>
     最近の例で言えば、イラクで二人の日本人外交官が殺されました。『週文春』が、あれは「米軍の誤殺だ」という報道を流した・・が、本当はどうか全くわからない。・・あのタイミングで日本人がイラクで殺されれば、自衛隊のイラク派兵にとっては、はなはだ都合がいいんじゃないかと思う・・イラクの人を使って殺させたっていう筋書きだって考えられますから・・常に真相はやぶの中なんです。
      イギリスのダイアナ妃の暗殺事件だってまったく同じ。・・・私が、西洋的な社会がある意味で嫌いなのは、そこなんですよね。非常に政治的に動く。しかも事件まで起こす。ケネディ大統領がなぜ殺されたか、いまだに分からない。どうやら真相に近付いたに違いないというのは、それに近い証人が次々に殺されていく事実で分かる・・そういう社会なんです、彼らの社会は
(p.80)

2 comments:

n said...

不朽の名作『羅生門』(1950年、監督:黒澤明)の原作も、芥川龍之介の『藪の中』というタイトルの短編小説。以下は映画『羅生門』で語られ世界的に有名になったセリフ。


旅法師「しかし、死んだ人間まで嘘を言うとは考えられない」
下人「なぜだい?坊さん」
旅法師「人間がそんなに罪深いものだと考えたくない」
下人「それはお前さんの勝手だが、いったい正しい人間なんているのかい。みんな自分でそう思っているだけじゃねえのか。」
旅法師「恐ろしいことを」
下人「人間というヤツは自分に都合の悪いことは忘れちまう。都合のいい嘘を本当だと思ってやがるんだよ。その方が楽だからな」
旅法師「そんなバカな」

[英語字幕]
Commoner: But is there anyone who's really good? Maybe goodness is just make-believe.

Priest: What a frightening...

Commoner: Man just wants to forget the bad stuff, and believe in the made-up good stuff. It's easier that way.

Priest: Ridiculous.

n said...

養老孟司著『真っ赤なウソ』には次のような一節もある。

(引用)山本七平さんが本の中で、キリスト教の世界では「地獄への道は、­善意で敷き詰められ ている」って書いていましたね。これはある意味で本当ですね。自­分が正しいことをして いるとか、善意でやっていると思っている人ほど、ある意味でたち­が悪いことはない。(P.63)

これをRich著"The Hidden Evil"の以下の部分と合わせて読んでみていただきたい。言及している内容が見事に符号することにお気づきだろう。なお同著は集団ストーキング犯罪に関する考察を体系的にまとめ、関連資料も徹底的に網羅した、権力犯罪コインテルプロの告発における、まさに金字塔である。

(引用)(COINTELPRO perps) are endowed with a sense of responsibility & are confident that a program sponsored by the DOJ must be moral & legitimate.
集団ストーカー活動に参加しているこの市­民たちは使命感を与えられ、この活動が道徳的で正当なものだとい­う自信を抱いている
But lacking historical knowledge, they are unaware that they may be playing a small role inside of a larger program of state-sponsored terrorism, against those the Establishment has deemed undesirable.
しかし歴史的な経緯を知らないので、自­分らが、国家が支援する官製テロの片棒をかつぎ、支配者層にとっ­て目障りな人間を弾圧・粛清するコマの役目を果たしているかもしれない­ことに気付いていない(p.11)